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2013年1月28日更新

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1960年代、世代や性別を超えて口ずさめた昭和歌謡全盛期を懐かしむかのように、作家・五木寛之がさまざまな流行歌について書き綴ったエッセイ(『わが人生の歌がかり』)をモチーフにした『教授』。椎名桔平にとっては約3年ぶりの舞台、寄生虫研究に没頭する免疫学者役に挑戦する。

舞台は役者のものなんだと思っている。責任も含めてね

── 『ベント』『レインマン』『異人たちとの夏』……と数年に一度のスパンで、焦らず着実に舞台に取り組んでいるという印象がある椎名。映画やドラマとは違う、舞台の魅力とは?

「1ヶ月以上を掛けて、試行錯誤をする余裕を十分に持てるというのが、まず大きな魅力ですよね。映像作品との大きな違いはもうひとつ。撮影って切り貼りな作業じゃないですか。映像では、1シーンを撮ったら素に戻り、また別のシーンに集中する。その繰り返し。カメラのフレーミングや背景など自分では判らないし、ましてや最後にどう編集されるかも役者には判らない。もちろん、判ることといい芝居ができることは別の話ですけれどね。
ところが、舞台は2時間なら2時間、ずっと役の中に入り込める。これはある意味、贅沢なことだと思っています。キャラクターを作り込んでいく責任の範疇が(映画やドラマよりも)役者に大きく課せられている。もちろん全体を見渡す演出家の要望もあるんだけれど、自分を自分で演出する部分も大きい。結局、舞台に上がったらこっちで何とかしなきゃならない。お客さんに2時間どっぷりと魅入ってもらうべく初日以降も試行錯誤を重ねて、本番中に見つけた何かによって変化させていくことも。その変化は役者の勇気であり、同時に責任でもあるんです。舞台は役者のものって感じがする。映画は監督のもの、テレビドラマはプロデューサーのものですね。ま、例外もありますけど。(笑) 」

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── 最近の舞台作はすべて演出家・鈴木勝秀さんと組まれていますね。盟友とも言えそうな存在です。

「やりやすい、というのはもちろんあります。鈴木さんは、舞台をするときに僕が望む物差しを受け入れてくれるんです。リアルな人間像を表現できる舞台じゃなければ出る意味がないと思っているし。なぜならば、舞台で得たものを映像の芝居にフィードバックさせたいから。言ってみれば、真剣な俳優修業の場、研鑽(けんさん)の場としての舞台です。その場を鈴木さんは僕に与えてくれる。一方で、鈴木さんにも“本当にやりたい舞台”というのがあって。お互いの何か、舞台に挑む上でのシンパシーみたいなものが交わって、重なっているんだと思います。」

── 五木寛之氏のエッセイに着想を得たという『教授』、ユニークな展開になりそうです。

「実はね、鈴木さんとは別の企画を考えていたんです。僕らの舞台作はかつての映画を舞台で蘇らせるというのが多いのだけれど、それで僕がやってみたかったのが映画『リービング・ラスベガス』。ニコラス・ケイジ演じるアル中の脚本家が死ぬまで酔いつぶれようとラスベガスにやって来る。そして、エリザベス・シュー演じる娼婦とイノセントな恋愛に……という。何とか舞台化したいと構成や登場人物を考えたり、生で歌を入れようとか考えていたんですが、勇気あるプロデューサーがいなくて(苦笑)。
そんなときに、五木さんのエッセイをベースにするという漠然とした企画が上がって来て、鈴木さんが「じゃあ、『リービング……』の構想をここに組み込んだらいいんじゃないだろうか」と考えたらしく。僕も「あ、できるかもね」って思った。逆に、僕らの想定外の面白さも生まれるかもしれないな、と。

酒で自分の体を侵していくアル中の代わりに鈴木さんが考え出したのが、免疫学の教授。寄生虫を体に入れて自らを実験台にする男です。ある意味、一般人とは違う取り憑かれ方というか、見つめる方向が違うという共通項を考えたんでしょうね。その研究者が、昭和の流行歌を愛しているという設定なんです。」

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── 研究に打ち込む主人公の姿、昭和という時代を席巻した流行歌。それぞれの魅力が舞台の上で絡み合うという展開……?

「『こういう舞台です』ってハッキリ言えるほど面白くないもの、無いですからね。観てみなくちゃ判らない、っていうのがいいんじゃないですか(笑)。
流行歌っていうのは、みんなが同じときに聞いてて誰もが知っている、口ずさめるもの。本当に大切にしたいもの、心を豊かにしてくれるものを求める時代が、東日本大震災以降スタートしたんじゃないかと思っていますよ。それ以前から求めてはいたでしょうけれど、大震災や原発事故が、はっきりと口に出してみようとか少しでも動いてみようという気持ちを後押ししたことは間違いないと思う。

五木さんはそれぞれの流行歌の背景を交えつつ、自分たちはこう生きて来たとエッセイで綴っておられる。メロディを思い浮かべたり聴いたりすると、その時代が思い出せるような曲たちがいくつもあります。僕ら役者って最低限、言葉を伝えなきゃいけないでしょ。そのせいか、いい歌詞を聴きたい。子どもでも、すべて意味が判ってなくても口ずさめる。昭和の流行歌にはそんな歌詞がたくさんあった気がしますね。じゃあ、今という時代は今後、どんなメロディや歌詞で思い出されるんだろう……それを考えると、ちょっと寂しいような気がするね。」

── いよいよ舞台稽古が始まります。最後に意気込みのほどを。

「数年に一度しか携わらないからこそ、絶対に舞台で失敗したくないんですよ。じゃあ成功って何?っていう話だけれど、ともかく望む舞台ができるように。そういう意味では、鈴木さんと組んできたこれまでの舞台は自分の中では成功だったと、きちんと乗り越えられたと思っています。観に来てくださった方々に、何かを持って帰っていただくというハードルの高さは重々判っていますし。とにかく観に来ていただきたいし、観に来れない人がどれだけ悔しがるかっていう舞台にしたい。そのくらい期待していてください!」

Writing:松本典子

INFORMATION

STAGE

アトリエ・ダンカン プロデュース
「教授」
~流行歌の時代を、独自の価値観で生きた歌好きの免疫学教授、そして、観念的な恋愛に己を捧げた助手~

2013年2月7日(木)~24日(日)Bunkamuraシアターコクーンほか

Based on:五木寛之『わが人生の歌がかり』(角川書店刊)
構成・演出:鈴木勝秀
出演:椎名桔平/田中麗奈/高橋一生/岡田浩暉、坂田聡、伊達暁、佐々木喜英、上條恒彦/中村 中

安保闘争・労働争議などが涌き起こる60年代、高度経済成長期の日本。そんな時代の趨勢とは無関係に、寄生虫研究に没頭する免疫学の教授と、彼を見つめ続けた助手。時代とは無縁に生きていたかに見えた教授だが、唯一の接点として彼は流行歌を愛していたーー。
『ベント』『レインマン』『異人たちとの夏』でタッグを組み好評を博した主演・椎名桔平×演出・鈴木勝秀が約3年ぶりに再会。映画作品を巧みに舞台化してきた彼らが、今回はオリジナル作品に初挑戦する。中村 中が“歌う狂言回し”として昭和の流行歌を歌うのも見どころのひとつ。また、公演終了後には、アフタートークならぬアフターライブも開催。日替わりの豪華ゲストとナビゲーター中村 中がその日取り上げる曲にまつわるトークを交えて歌を披露する。


▼公式サイト
http://www.duncan.co.jp/web/stage/professor/index.html

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