【石橋夕帆監督インタビュー】監督を務める映画『ひとりたび』が好評上映中!

仕事に恋愛、人生に行き詰まった30代の女性が学生時代に経験した「初恋」の記憶を頼りに、自分の人生を見つめ直す姿を描いた映画『ひとりたび』が好評上映中!監督を務めた石橋夕帆に監督を目指したきっかけや作品への想い、制作秘話を聞いた。
◾️大学在学中から独学で自主制作映画の脚本・監督を手掛けられていたとのことですが、どういうきっかけで自主映画を撮られたのでしょうか?
中高一貫の女子校に通っていて、中学1年生の時に軽音学部に入って女子4人でバンドを組んで高校生から色々な音楽イベントに出演したり、ライブハウスで活動したりしていて「バンドでやっていくぞ!」とプロを目指していたのですが、大学1年生の終わり頃にギターが脱退したり、活動がうまくいかなくなってしまって・・・。ある日のスタジオ練習の際に「活動を休止(解散)しようか」という話を私からしました。その時点で翌月のライブ出演が決まっていたのですが、活動休止の話をした後だったので少し気まずくて・・・。特にプランがあったわけではないのですが「私1人で何とかするね」と言ってしまったんです。普段のバンド編成での楽曲はできないので、ピアノや打ち込みの曲を中心に5曲くらい制作してそのライブは何とか乗り切りました。その後「何もやることがなくなった」と思いながら数ヶ月過ごしていたのですが、イベント用に作った5曲から物語的なものを思いつき「これを映画にしたい!」という発想になって映画を撮ることにしました。今だったらスマホでも撮影できるのですが、当時はフィルムからデジタルになった頃で“映画を撮る”と言っても経験のない私が映画を撮影することを周りになかなか理解してもらえなくて。でも、「映画を撮るね!」と断言的な形で宣言すると、服飾の学校に通っている友達が「衣装を手伝うね!」と言ってくれたり、メイクに興味がある子もメイクを担当してくれたり、協力をしてくれました。映画の撮り方の知識もないので、友達に映像の専門学校に通っている知り合いを紹介してもらって3人で飲みながら教えてもらった素人知識だけで撮ったのが初めての自主映画でした。長野で合宿をしながら撮影したのですが、本当に友人たちに恵まれて作品を完成させる事ができました。
◾️その後、どのような経緯で監督になられたのでしょうか?
大学3年の秋に映画館でなくギャラリーを借りて自主上映したのですが、楽しかったけど自分は今後監督・演出をやっていきたいのか、脚本を書きたいのか、その時点では判断つかなくて。芸大・美大に通うのは費用的にも難しい、だったら大学と並行して自分のバイト代で通える映画学校に行こうと思い、「ニューシネマワークショップ」に通いました。在学中に実習作品として短編映画を撮らせていただいて、その過程の中で「脚本を書くのも好きだけど演出を極めたい」と思い、卒業後は親にも許可を取って、フリーターや派遣社員として仕事をしながら自主映画を制作していました。
◾️話を伺っているとバンドの活動休止後のイベント出演も映画を撮り始めたきっかけも自分が発した言葉がパワーになって有言実行されていますよね。
今の自分がどうかわかりませんが、映画を撮り始めた当時は自分で振り返っても行動力が異常でみなぎる何かがあって(笑)、絶対実現するという思いが強かったかもしれません。ニューシネマワークショップの同期に今、監督としてご活躍されている中川駿さんがいるのですが、あの頃の自分を知っている人に会うと恥ずかしいと思うことがあります。昔から物事を複雑に考えない人間だったので、映画制作のプロセスの中で大きなポイントだけ教えてもらえれば、多少何かがずれていたとしても人間関係を守った上で自分なりに判断をして成立させられれば良いなという考えがありました。毎年自主映画を制作してく中で、周りの方に色々教えていただきながら、作品毎にステップアップしていくことを念頭に置いて短編映画を撮っていました。
© 2024 Ippo
◾️ヒューマンドラマや青春群像劇などのジャンルを中心に手掛けられていますが、作品を選ぶ時のこだわりはありますか?
漫画が好きで、特に少女漫画を多めに読んできたのですが、短編映画を撮っていた頃は「こういうものが見たい!」というときめきを描きつつ、情緒的な作品を形にしたいという想いが強かったです。長編映画の初作品が『左様なら』なのですが、原作者のごめん(川野凛)さんが初期に書かれた18ページの短編漫画に惹かれる部分があって映像化したいと思ったんです。元々は短編映画のつもりだったのを色々あって「長編映画で撮りたいな」と思った時、ごめんさんが内容を膨らませて長編にするのを許してくだったので、精神的な部分は大事にしつつ群像劇にして自分で脚本を書きました。長編映画を撮るようになってすごく遠くの出来事ではなく、自分の生活範囲内で課題や感情をキャッチできるもの、世の中の人がピックアップしないし泣き喚くでもなく大問題が起こるわけでもないけど、自分が感情を理解できて「こういう心のひっかかりを抱えて生きている人は絶対いるよね」という“実感”が持てる作品を映画にしたいなと思うようになりました。
◾️普段はどんな作品をみられますか?また影響を受けた監督はいますか?
比較的近年の邦画だと『夜明けのすべて』『パーマネント野ばら』『キツツキと雨』です。邦画の中でもとりわけゆったりした作品が好きです。最初に影響を受けたのは岩井俊二監督です。大学2年生の時に制作した初自主映画はファンタジー作品で、映画と音楽との親和性が岩井監督『PiCNiC』に影響を受けたんだろうなという内容でした。あと自分の好きなトーンの作品を作られている監督は沖田修一監督と吉田大八監督。お2人とも俳優さんのパブリックイメージと違う魅力をナチュラルに引き出すのがすごくお上手だなと思っていて「この人こういう役も似合うんだ」と作品を見る毎に驚いています。特に小栗旬さんは『花より男子』や『GTO』のイメージが強かったので『キツツキと雨』を見た時はすごくびっくりしました。なるべくいろんなジャンルの作品を見たいとは思いますが、どうしても好きなものをセレクトしがちです。友達に「好きってことへの思いは強いけど、嫌いっていうのが薄いよね」と言われるのですが、好きに向かうエネルギーを強く持っていたいなと思います。

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◾️最新作についても話をお伺いしたいと思います。映画『ひとりたび』というタイトルに込めた想いは?
企画書を書く時点でタイトルを決めなくてはいけなかったのですが、この物語を考えながら聞いていた曲がGO!GO!7188さんの「ひとりたび」で、映画の中では旅行はしていないけどすごくマインドが合う気がして仮タイトルとして決めました。正直、ロードムービーを連想させるタイトルではありますし、タイトルを変えるかどうか悩んでいたのですが、撮影を終えて編集で繋がった映像を見た時に『ひとりたび』というタイトルがしっくり来て正式決定しました。主人公の美咲が地元の和歌山に帰って来てからずっとどこに心を置いて良いかわからずに彷徨い続けているのですが、人間は家族や恋人などと身近な大切な人と一緒に過ごしていても根本的には一人で生きている気がして。それ自体が一人旅だと思うし、死んだ後のことはわからないけど、その先にも旅はあるんじゃないかなと思っていて、そういう意味合いで考えるとすごく腑に落ちたんです。タイトルだけ見てロードムービーだと思って見にこられた方は「旅行しないな」と思われるかもしれませんが、精神的なロードムービーだと自分の中では思っています。
◾️ご自身と同世代の美咲を描く上で一番共感できた部分やこだわって演出されたのはどの部分ですか?
美咲が10年間勤めていた会社を辞めるシーンを冒頭に入れるのは最初から決めていました。私は正社員として勤めていたことはないのですが、周りの友達の話などを聞くと、学生を終えて社会に放り出されて大変なこともありつつ何となく働き続けてきたけど、10年くらいたった時に「思ったより自分の人生って何もないかもしれない」ってふいに空っぽに思うことがあると思うんです。誰しもが夢とか希望とか人生の展望とかあるわけではないし、主体性を持っていられるわけじゃないので。入口からそういうことを感じられる物語にしたいと思ったんです。あと学生時代の思い出のMDを聞くためにMDプレイヤーをめちゃくちゃ探しちゃうシーンはトーンとしてはコミカルに見せているんですけど、何かに執着しちゃう、すがりついちゃうウェット感は共感してもらえる部分があるんじゃないかと思います。

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◾️演出で特にこだわったシーンはありますか?
台詞があるシーンではないのですが、景色が流れていって追っていくと自転車が近づいてくるという冒頭のシーンはこだわりました。カメラを3〜5分くらいずっと回していて何テイクか重ねているんですが、今までの長編映画と比べて規模感をあげていただいたので、これまで出来なかったカメラワークや撮影環境でより映画的な撮影ができて、それが集約されたシーンになっています。あとはどのシーンもみなさんのお芝居が素敵だったのですが、撮影中に特に良いなと感じたのは美咲が終盤、学生時代の恋人の圭一の家に行くシーン。言葉はないのですが、美咲なりに圭一への想いに区切りをつける心情が描かれていて、現場で見ていてすごく感動しました。
◾️『ひとりたび』は第29回 釜山国際映画祭ジソク部門の正式出品作品として上映もされましたが、海外の方はどう感じていると思われますか?
アジア圏は文化的に近いのでほぼほぼ同じような感覚で伝わったんじゃないかなというのが素直な感想ですね。形になって見てもらうまでは予想できなかったのですが、美咲と同じように大切な人を亡くし美咲と近い感情を持たれた方が意外にもいらっしゃって。特に30代、40代以上の人はただの確率の話ですが「そういう経験が増えてくるよね」と実感しました。またそういうことを抜きにしても初恋の甘酸っぱさ、なんとも言えないソワソワ感は万国共通だなと思いました。

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◾️現在はサブスクなどで色々な場所や方法で作品を楽しめるようになっていますが、その点はどう感じられていますか?
私は趣味というと、漫画を読む事くらいなのですが。漫画の中で「この作品だけは紙で読みたい」と思うものは本屋で購入していますが、最近は圧倒的に電子で読むことが多いです。映画に関して思ったのは長編2作目の『朝がくるとむなしくなる』の配信が最近始まったのですが、SNSなどで作品の感想を見ていた時に劇場でたくさん見てくださっていた方の感想で「この作品がいつでも見られる状態になっていること自体が自分のお守りのようになっている」と書いてくださっていたんです。作り手のエゴで「映画は映画館で!」と思いがちな部分はもちろんあるのですが、生活の中で、より心の近くに作品を置いてもらえるのは本当に嬉しいです。サブスクは映画業界にとってどうやってつきあっていくべきかという問題もありますが、映画館に行きたくても時間的にどうしても行けないという場合もあるので、生活から離れて足を運ぶ映画館と、生活の中に置いてもらえるサブスク。両方と上手に付き合う方法は意外とあるんじゃないかと思います。
◾️最後に『ひとりたび』の見どころを教えてください。
美咲は10年間勤めた会社を辞めて空っぽの状態で初恋の人が亡くなってしまったことを知るのですが、正直知りもしなければそのまま生きていけたはずが、知ってしまった以上は傷ついたり執着したり思いを馳せてしまう。けど、そんな自分を曝け出すことができないし、周りからは早く立ち直れって思われているんじゃないかという葛藤を持っています。でも、人間ってそんな簡単には大丈夫になれない。痛みや傷を抱え続ける事も、何かを想い続ける事も決して悪いことではないし、この作品が「大切なものは大切なものとして自分の中に持ち続けていいんだ」と心の後押しをするきっかけになったら良いなと思います。

<作品紹介>
映画『ひとりたび』
東京K’s cinemaほか、全国順次ロードショー
※上映スケジュールなどは公式サイトでチェック!
公式サイト:https://hitoritabi-film.com/
<STORY>
東京で働く主人公・美咲。10年勤めていた会社に居づらくなり退職し、将来が見えないまま実家に帰る。地元で開催された同窓会で、初恋の相手が2年前に亡くなっていたことを知り——。空っぽだった美咲の心が、初恋の思い出で埋め尽くされていく…主人公と同世代の3人が、将来への不安と過去の思い出の邂逅を織細に紡いでいく。
<プロフィール>
石橋夕帆(イシバシユウホ)
監督・脚本家/Film director, Screenwriter
1990年11月11日、神奈川県出身
映画『左様なら』で長編デビュー。長編2作目『朝がくるとむなしくなる』が北米最大の日本映画祭・JAPAN CUTSに正式出品され韓国や台湾、フランスでは100館以上で公開される。長編3作目『ひとりたび』では釡山国際映画祭コンペティション部門(ジソク部門)に正式出品された。「君としたキスはいつまでも」「北欧こじらせ日記」などのドラマや、広告、ミュージックビデオの監督も務める。 日常の空気感と感情の機微を丁寧に描く作品づくりに定評がある。